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CAD・BIM・3D可視化、設計事務所は結局どれから手をつけるべきか:課題別に整理する設計事務所のDXロードマップ

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Jw_cad/AutoCAD/Vectorworks/Revit/Archicad/SketchUp/Twinmotion/Lumion/Coohomを、課題別に整理する設計事務所のDXロードマップ

「図面で見ていたときは、もっと広いと思っていたんですよ」

引き渡しのあとに施主からこう言われた、という話。驚くほどの頻度で出てきます。

打ち合わせは十回以上やっている。平面図も展開図も出しているし、内観のパースだって用意している。ソファの寸法を書き込んだ家具レイアウトまで渡している。それでも、伝わっていない。

しかも言うほうに悪気はなくて、たいてい気を遣いながら、笑いながら言われる。だから余計にこたえる、というところまで話が同じなんです。

この手の話を何度も聞くうちに思うようになったのは、問題は説明の回数でも資料の枚数でもないんだろう、ということでした。


高機能なツールを導入しても、なぜ業務は楽にならないのか

その後の展開も、だいたい似ています。

うちの提案が見劣りしているからだ、と考えて、レンダリングのきれいなソフトを導入する。SNSで同世代の設計者がきらびやかな内観パースを上げているのを見れば、そう思うのも無理はありません。

半年後、パースは確かにきれいになる。事務所のInstagramの見栄えも良くなる。

手戻りは、減らない。

減らないどころか、レンダリング待ちの時間、マテリアルを探す時間、「もう一案だけパース出しておいて」という指示が増えて、スタッフの退社時間が前より遅くなる。導入の翌年に残業が増えた、という話は本当によく聞きます。

道具のせいにするのは、ラクなんですよ。ソフトが古いから、うちにBIMがないから、あの事務所はいいツールを使っているから。そう考えている限り、自分の仕事のやり方を疑わずに済みますから。

起きているのは、痛みの場所を取り違えたまま、違う場所に薬を塗っているという、それだけのことです。


まず自分の事務所の「詰まっている場所」を特定する

いろんな規模の事務所の話を聞いていると、時間と利益が消えていく場所はだいたい三つに集約されます。そして三つは、まったく違う性質の痛みを持っています。


1. 作図コスト

線を引く時間そのものの話です。

平面詳細を直したのに矩計が古いまま、という話ではなくて、もっと手前の段階です。同じ変更を五枚の図面に手で反映する。前の物件で描いた納まりが、担当者の個人フォルダにしかなくて探せない。二人の所員が描いた展開図の表現が微妙に違って、確認に三十分溶ける。

こういう小さなロスは、誰も「問題」として報告してきません。粛々と時間だけ持っていかれます。

2. 情報管理コスト

情報がズレていく時間、と言い換えてもいい。

建具を一本変えたのに建具表が追いついていない。設備屋さんとの調整不足が、現場でスリーブの位置になって出てくる。減額調整で仕様を落としたのに、仕上表だけ古い版が現場に渡っている。

これは作図スピードをいくら上げても、絶対に解決しません。図面ではなく、建物の情報そのものを持っていないから起きることです。

3. 合意形成コスト

施主と目線が合うまでにかかる時間です。

冒頭の「もっと広いと思っていた」は、これにあたります。設計者の頭の中には空間が立ち上がっている。図面を見た瞬間に、天井高も、視線の抜けも、朝の光も見えている。施主には、見えていない。

見落とされがちなのは、これが施主の理解力の問題ではないということです。図面を三次元に変換する訓練を何年も積んできたのは、こちら側だけなんですから。

自分の事務所がどこから血を流しているのかを見ないまま道具を選ぶと、まったく効かない場所へ高い薬を塗ることになります。

CAD:いまも業務の中心にある基本ツール

BIMだ3Dだと言われて久しいですが、実施図を現場に渡す仕事がなくなったわけではありません。職人さんが見るのは、いまも紙か、タブレットに入ったPDFです。


Jw_cad — 日本の住宅実務に根づいた軽量2D CAD

Jw_cadを使い続けている事務所を、少し古い目で見る若い設計者もいます。無料のソフトで止まっている事務所、という見られ方をすることもある。

それでも、地場の工務店とやり取りをしていると、jwwで送ってくる会社はまだかなりあります。あちらの担当者が慣れた環境で図面を開けて、赤を入れて返してくれる。この摩擦の少なさは、機能表には載らない価値です。

動作が軽くて、住宅の申請図と実施図に必要なものはひととおり揃っている。小さな事務所にとって、覚えることが少ないというのは、それ自体が導入コストの低さでもあります。

もちろん、三次元の情報を持たせたり、複数人で同じモデルを触ったりする世界とは地続きではありません。案件が複雑になっていく事務所が、いつまでもここに留まれるとは思えない。ただ、戸建住宅の図面を確実に仕上げるという一点に絞れば、いまも現役の道具です。

「Jw_cadとAutoCADの違い」を聞かれることが多いのですが、優劣の話ではなく、誰とデータをやり取りするのかの話だと思っています。

AutoCAD — データ連携を重視する事務所向け

商業やテナント工事が増えてくると、ある日突然、話が変わります。設備、電気、内装、サイン、什器。関わる会社が一気に増えて、それぞれが違う環境で図面を描いている。

そこでDWGという共通言語を持っていることの意味は、想像以上に大きい。変換のたびに線種が化けたり、文字が飛んだりするストレスがないだけで、打ち合わせの空気が変わります。

ただ、自由度が高いぶん、事務所側の規律が全部見えてしまうソフトでもあります。レイヤー命名、図面枠、通り芯の扱い、テンプレート。ここを決めずに人数を増やすと、担当者の数だけ流儀ができて、統合の段階で描き直しになる。人が増えた事務所が最初につまずくのは、たいていここです。

住宅一本でやっている事務所が入れると、機能の八割は一生使わないと思います。

Vectorworks — 意匠設計・インテリア向け

意匠系、とくにインテリアや店舗をやっている人が好んで使う理由は、実際に触ってみるとよくわかります。スタディの延長で三次元が立ち上がって、そのままプレゼンの紙まで持っていける。頭の中の流れが途切れない。

設計という仕事が、考える→描く→見せるの往復である以上、この「途切れなさ」は効きます。

一方で、複数の専門会社と情報を突き合わせるような段階になると、RevitやArchicadの土俵になります。どこまでを一人で完結させたいのかで、選び方が変わるはずです。

BIM:3Dで見るためのものではなく、情報を管理する仕組み

BIMを高級な3D CADだと思っている人は、いまだに少なくありません。最初はたいてい、そこから入ります。

違います。あれは、壁や建具や設備が情報を持っていて、ひとつ変えると関係するところが全部動く、という仕組みのことです。見た目は結果でしかない。


Revit — 大規模建築と専門間連携に強い

意匠・構造・設備が別会社で、変更が毎週飛んでくるような案件。干渉チェック、数量、建具表、変更の追従。人間が気合いで管理するとミスが出る領域を、仕組みで押さえられる。ここでのRevitの強さは本物です。

「RevitとArchicad比較」でよく語られる話も、結局は案件の複雑さと関わる人数の話に収束すると感じています。

ただ、住宅中心の小さな事務所がすぐ入れるべきかというと、そこは慎重に考えたほうがいい。

思い切って導入したものの、一、二年で運用が止まってしまった。数人規模の事務所では、まったく珍しくない話です。ソフトが悪いわけではありません。ファミリを整える人がいない。テンプレートを育てる時間が取れない。所長が案件を回しながら教育も兼ねるのは、単純に無理があるんです。

BIMは入れれば効率化する道具ではなく、組織として運用できたときに初めて価値が出る仕組みです。買うのは一日、育てるのは二年。そこを覚悟できるかどうかだと思います。

Archicad — 設計プロセスに寄り添うBIM

一方で、意匠を主戦場にしている人がArchicadを選ぶ気持ちは、よくわかります。手が止まらない。考えている速度でモデルが立ち上がる感覚がある、とよく聞きます。

大規模な情報連携で殴り合うためではなく、自分が空間を考えるプロセスに寄り添わせるための道具として選ぶなら、こちらのほうが素直に馴染むはずです。

3D可視化:提案力を左右する領域

ここが、いちばん誤解されている領域だと思っています。

SketchUp — 自由な空間検討に

ボリュームを掴む、造作家具の納まりを検討する、断面のスタディをする。この段階での軽さは代えがたい。作って壊してがストレスなくできる道具は、思考の道具です。

住宅の提案でそのまま使おうとすると、家具や素材のライブラリを自分で育てる覚悟が要ります。

Twinmotion・Lumion — 完成イメージを魅力的に見せる

外観、動画、ウォークスルー、コンペの一枚。完成した建築を魅力的に見せる力は圧倒的です。プロポーザルで戦う事務所には必要な武器だと思います。

ただ、住宅の打ち合わせの机の上で必要なものとは、少しズレます。

Coohom — 住宅・インテリア提案の工程に寄せた3Dツール

住宅やリフォームを主戦場にしている事務所を見ていると、最後に効いてくるのは「その場で動かせるか」の一点です。

きれいなパースを持ち帰って、三日後にまた出す。これを繰り返している限り、打ち合わせは何回やっても終わりません。最近は、打ち合わせのテーブルにノートPCを開いたまま進める事務所が増えてきました。「やっぱりソファはこっち向きかも」と言われたら、その場で向きを変えて、二案を並べて家族に見てもらう。決まるのはその瞬間だ、という話は各所で聞きます。

Coohomのようなクラウド型のツールは、間取り、家具、素材、レンダリング、パノラマ共有までをひと続きに扱えるので、この使い方と相性が良い。戸建、リフォーム、インテリア、工務店、少人数の事務所あたりが射程だと思います。

正直に書いておくと、万能ではありません。実施図の代わりにはならないし、細かい納まりを詰める道具でもない。通信環境が悪い現場事務所ではもたつきます。CADと置き換えるものではなく、CADに戻る前に、施主と一緒に決めきるための場所として使うのが現実的です。

合わない事務所には、はっきり合わないと思います。設計料の大半が実施設計にある事務所なら、優先度は下がるはずです。


3D可視化を使ううえで、ひとつだけ注意していること

ここからは、あまり語られない話をひとつ。

レンダリングの質が上がってから、打ち合わせで施主が「うーん」と言う回数が減った。最初は提案が刺さっている証拠だと受け取ってしまいがちですが、そう単純な話ではありません。

あまりに完成品然としたビジュアルを出されると、人は口を挟みにくくなります。「もうここまで作ってくれたのに、いまさら」と思わせてしまう。引き渡しのあとに小さな不満が出てくる家は、たいてい打ち合わせが穏やかすぎた家だった。この指摘は、ベテランほど口にします。

その反動なのか、最近はあえて素っ気ない状態で見せる事務所が出てきました。マテリアルを入れる前の、白いモデルのまま。二案を並べて、どちらも完璧ではない状態で置く。そうすると施主がやっと本音を言ってくれる、という考え方です。

道具は、施主を説得するために使うと、必ずどこかで代償を払います。施主が自分で決めるために使う。この向きを間違えると、性能が上がるほど関係が悪くなる。

これから独立する人がいたら、いちばん先に伝えたいのはこの話です。


DXとは、いちばん高機能なツールを選ぶことではない

CADは、正確に描くための背骨。BIMは、建物の情報を管理する仕組み。3Dは、施主と目線を合わせるための場所。


役割がまるで違うものを、性能の高さという一本の物差しで並べようとすること。ツール選びで失敗する事務所は、だいたいここでつまずいています。

事務所のDXという言葉が苦手なのは、ソフトを増やすことのように語られがちだからです。実際にやるべきことは逆で、仕組みに任せられる反復作業を切り離して、設計者が判断に使える時間を買い戻すこと。それ以上でも以下でもない。


冒頭の「もっと広いと思っていた」に戻ります。あの場面で足りなかったのは、きれいなパースでも新しいCADでもなく、決めてしまう前に施主の隣で一緒に迷う時間だったはずです。道具を選ぶ基準も、結局そこに置くのがいちばん外さないと思っています。