部屋別レイアウト・家具配置

家具選びは、もう「想像」に任せない:3Dが変える家具購入体験について

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IKEA・ニトリ・LOWYA・カリモク家具から見る、3Dが変える購入体験

インテリアの設計に長く関わっていると、ひとつの順番がずっと気になってくる。

家具は、いつも最後に呼ばれる。

平面図を引き、動線を決め、内装を選び、照明を配置する。空間がひと通り固まったあとで、ようやく「では家具はどうしましょう」となる。空いた場所に、あとから置くもの。家具は長いあいだ、そういう扱いだった。

ところが、ここ数年で家具ブランドが3DやARに本気で取り組み始めたのを見ていて、その前提が静かに崩れ始めているように感じる。IKEA、ニトリ、LOWYA、カリモク家具。機能や使い方はそれぞれ違うが、いずれも3D・AR・Room Plannerを通じて「家具を購入前に確かめられる環境」を整えつつある。

一見すると、ECの機能がひとつ増えただけに見える。だが各社を並べて眺めると、変わろうとしているのは商品の見せ方だけではない。家具が選ばれるまでのプロセスそのものだ。

写真と寸法だけでは、人は決められない

家具のオンライン販売には、昔から解けない問題がある。商品写真がどれほど美しくても、「自分の家に置いた状態」までは分からないことだ。

打ち合わせで、いちばん難しいのはいつも同じ場面だ。カタログのソファを指して「これ、素敵ですね」と言われる。幅は2000mm。数字は伝わっている。でも、その2000mmが「うちのリビングでどう見えるか」は、まったく伝わっていない。木部の色が好みでも、ご自宅の床やカーテン、すでにお持ちの家具と並んだとき、同じ印象になるとは限らない。

ダイニングテーブルなら、天板が部屋に収まることと、快適に使えることは別の話だ。椅子を引くスペースはあるか。着席した人の後ろを、家族が通れるか。収納なら、扉を開けたときに壁やベッドと干渉しないか。お客様が本当に判断したいのは、家具単体の形や色ではない。

この家具は、自分の部屋に収まるのか。

今のインテリアと調和するのか。

置いたあとも、無理なく暮らせるのか。

従来の商品ページは、家具を詳しく説明することはできた。しかし、家具と顧客自身の空間との関係は、最終的にお客様の想像に委ねるしかなかった。3DやARが広がっている理由は、この「想像しなければ決められない」という負担にある。


同じ「3D対応」でも、役割はまったく違う

職業柄、各社のツールをよく触っている。ひとくちに「3D対応」と言っても、その中身はまるで違う。四つの段階に分けて見ていきましょう。

第一段階は、立体的に見せること。 

商品を360度回し、正面写真では見えない側面や背面を確認する。従来の商品写真を立体化した段階だ。

第二段階は、自宅に試し置きすること。 

ARで家具を実際の部屋にほぼ実寸で重ねる。ニトリが2024年に始めた「スマホで簡単!3Dで試し置き」がまさにこれだ。店頭に見たい商品がない、大きさが想像しにくい、自宅に合うか分からない——そうした声に応える発想で、約300アイテムから始め、同年内に約1000アイテムへ広げる計画が示されていた。サイズや配置への「買う直前の不安」が、ここでかなり減る。LOWYAのようなECブランドも、360度確認とAR、部屋全体のシミュレーションで、商品写真と実際の部屋の距離を埋めようとしている。

参考:LOWYA公式サイトhttps://www.low-ya.com

第三段階は、部屋全体を組み立てること。

 IKEAの「IKEA Kreativ」が象徴的だ。これは商品一覧からではなく“自分の部屋”から始まる。自宅をデジタル空間として再現し、既存の家具を画面上で取り除き、新しい家具へ入れ替えながら完成イメージをつくっていく。IKEAが用意した3Dショールームから始めることもできる。利用者はもうソファ単体を見ていない。ソファを置いた自分のリビングを考えている。キッチンや収納など、カテゴリーごとのプランニングツールもある。ブランドのサイトが、商品を探す場所から、自分の空間を組み立てる場所へ広がっているのだ。

参照:IKEA 公式ページ - https://www.ikea.com/jp/ja/newsroom


第四段階は、専門家と一緒に決めること。 

ニトリは、ARで作った商品3Dをインテリア相談にも使っている。専門スタッフが顧客の間取りを3D化し、家具を配置しながらコーディネートを提案する。ここで3Dは、一人で使う試し置き機能ではない。顧客とスタッフが同じ空間を見ながら、「このソファでは少し大きい」「こちらのテーブルなら動線を確保できる」「床の色には別の張地が合う」と、一緒に判断するための“接客の共通言語”になっている。

参考:ニトリ公式サイトhttps://www.nitori-net.jp/ec/feature/nitoriAR

カリモク家具のシミュレーターも、この方向を体現している。ブラウザ上で部屋の大きさを設定し、椅子の張地や家具の塗装色を変え、床・壁紙・カーテンとの組み合わせを確認できる。ショールームでは自宅の図面を使ったレイアウトプランニングも行われる。価格が高く長く使う家具ほど、購入前の納得感が要る。ここでの3Dは、魅力的に見せる広告表現ではなく、顧客が具体的に検証し、納得して選ぶための手段になっている。

見るための機能から、試すための機能へ。そして、一緒に決めるための機能へ。役割は、確実に前へ進んでいる。

参考:カリモク家具公式サイトhttps://www.karimoku.com/

メーカーが可視化したいのは、家具ではなく「その家具がある暮らし」

なぜ、家具単体を見せるだけでは足りないのか。形や素材感を伝えるだけなら、写真や動画でも十分に美しい。それでも3Dが要るのは、お客様が知りたいのが「商品の美しさ」だけではないからだ。

顧客は、その家具を置いたあと、どう暮らすことになるのかを考えている。ソファなら家族がどこに座るのか。ダイニングなら食事のあと人が周りを通れるのか。収納なら扉を開けたときに他の家具と干渉しないか。家具の価値は、単体では完結しない。空間や、人の動きや、他の家具や、日々の行為との関係の中で決まる。

だから家具メーカーが3Dで可視化しようとしているのは、

家具そのものではなく、「その家具がある暮らし」

なのだと思う。写真は、ブランドが用意した“理想の部屋”を見せる。美しいけれど、それは他人の家だ。一方で3Dは、利用者自身の条件に近づけながら、完成像を組み替えられる。用意された正解を眺めるのではなく、自分の家に合う答えを探せる。家具選びが、鑑賞から検証へ変わっていく。

つまりデジタル化されているのは、家具の形ではない。家具が選ばれるまでのプロセスそのものだ。従来はお客様の頭の中だけで行われていた比較や検討が、少しずつ画面の上へ移ってきている。3Dは商品の見せ方を変えるだけでなく、家具メーカーが顧客の意思決定へ直接参加するためのインターフェースになりつつある。


それでも、まだ「サイトの中」で完結している

ただ、現在の3D体験の多くには、共通する性質がある。ブランドの公式サイト、専用アプリ、店頭システムの中で完結していることだ。顧客が購入直前に確認する仕組みとしては、非常に有効だ。

けれど設計の現場に立っていると、家具が選ばれる場所は、本当はもっと手前にあると感じる。住宅会社との商談。設計事務所での打ち合わせ。インテリアコーディネーターの提案。工務店が作る完成パース。そうした「家がまだ図面の中にある段階」で、家具はすでに比較され、選ばれ始めている。

家具メーカーが自社の3Dデータを公式サイトの中だけに置いておけば、購入直前の顧客には届く。だが、そのデータを設計者が使えるようにすれば、顧客が具体的な商品名を検索する“前”から、自社家具が提案の候補に入る可能性が生まれる。Coohomのような3D設計プラットフォームが、家具ブランドの商品データを空間設計や提案に使えるようにしているのも、この文脈だ。

次に問われるのは、ホームページに3D機能があるかどうかではない。

家具の3Dデータが、公式サイトの外へどこまで入っていけるか

だ。家具メーカーの3D対応は、消費者向けの試し置きから、設計者が実在商品を提案する段階へ進もうとしている。この「家具メーカーと設計側の接続」については、後編で詳しく考えてみたい。


おわりに

日本の家具ブランドの3D対応を見ていて感じるのは、各社が導入した個別機能以上に、家具を見せる前提そのものが変わっていることだ。

立体的に見せ、自宅へ試し置きしてもらい、部屋全体を組み立ててもらい、専門家と一緒に選んでもらう。3Dの役割は、商品表示から家具選びの意思決定へと広がっている。

家具メーカーが本当に作ろうとしているのは、商品の立体画像ではない。

「その家具がある暮らし」を、購入前に確かめられる仕組みである。

そして次の競争は、その体験を自社サイトの中で完結させることではなく、設計者や住宅会社のワークフローへどこまで接続できるかへ移っていく——後編では、その一歩先を書いてみたいと思う。

(後編:「家具メーカーの3Dデータは、なぜ設計者まで届く必要があるのか」へ続く)